歴史的な大事件に深く関わった人物は誰もが知るところとなるが,その後に残された者に対して衆目が集まることは稀である.「無明の将軍」「平家の封印」「奥羽の風塵」「源太の産衣」の4編からなる本書では,その“残された者”が主役である.
「平家の封印」は壇ノ浦で敗れた後に平家として生き残った平時忠を,「奥羽の風塵」は平家滅亡後の源義経と奥州藤原家を,「源太の産衣」は頼家亡き後の実朝を,「無明の将軍」は実朝・公暁亡き後の貞暁(頼朝の側室の子)を,それぞれ描く.義経を除けば,いずれも歴史の表舞台で脚光を浴びた人達ではないだろう.
頼朝が彼らに与えた影響は, “残された者” の生涯を左右するほど大きい.が,本文中の頼朝はストーリー展開とは大きく関わらないところで,わずかに現れるのみである.作者は“頼朝”をタイトルに用いて共通のキーワードにすることによって,各編の主役の生き様を見事に描いてゆく.とても面白い読み物であった.