華人初のノーベル賞受賞の決め手になった作品、
これ以上ないくらいに直球なタイトル、
おまけに表紙は著者自筆の水墨画となると、
「霊山を求める男の魂の遍歴」を描いた
民族色たっぷりの作品を予想したくなるところだが、
その期待は間違いなく良い方向に裏切られるはずだ。
「おまえ」と「私」の二人を主人公とする別々の話が
隔章形式で語られていく手法はきわめて現代的で、
「おまえ」は旅先で出会った「彼女」との
半ば真剣な恋愛遊戯に溺れるばかりだし、
「私」はというと各地の伝説や奇譚に取材を繰り返すだけで、
「霊山」を求める旅はむしろ迂回や停滞を重ね、
決して直線状に進むことはないのだが、
大陸の住人に特有のものと言うべきか、
繊細でありながらどこか骨太な描写と相まって、
多種多様な語り口や文体が挿入されることで、
ほとんど神話から現代に至る膨大な中国史の全体が
一冊の書物の中に丸ごと描き込まれているかのような、
茫洋としたスケール感が生み出されている。
読み進めていくうちにどこかで波長が合えば、
重厚そのものとしか言いようのない読後感が得られるだろう。