筆者の名前も知らなかったけど,この出版社の名前も聞いたことがなかった。
奥付見ると福岡の出版社みたいで,渡辺京二(『黒船前夜』だけ読んだことがある)の本なんかも出してる。
こういう地方の出版社が個性的な本を出すのはいいことだと思う。
健闘を祈る。
この本はなかなかおもしろい。
青山霊園に眠る人たちが近代史に果たした役割を改めて考えるって体裁の本なのだけれど,へぇーて思う小ネタがたくさん。
たとえばいくつか例を挙げるとこんな感じ。
・暗殺された大久保利通の墓が,青山霊園にあるのだが,その時災難に巻き込まれて亡くなった御者と馬(!)の墓も同じ場所にある。
・西南戦争の戦闘のきっかけは,大久保が放った密偵が「鹿児島入りの目的は視察」と言ったのを,「(西郷の)刺殺」と聞き違えたから。
・佐賀の乱に敗れた江藤新平は逃亡したが,自分が司法卿時代に整備した手配写真制度のために容易に捕まった,
・処刑された江藤新平は,明治には珍しい「さらし首」にされた。「さらし首」の刑がなくなったのは,明治11年。
・「高島暦」の祖である明治の易者高島嘉右衛門を清の李鴻章(日清戦争の清国全権)は「易は支那に起こりて支那に滅び而して今,翁(高島)に因て日本に起こる」高く評価していた。
などなど,おもしろいエピソードてんこ盛なのだが,読み進めるうちに疑念もわいてくる。
この本て,巻末に挙げられてる参考文献からエピソードを拾ってきて再構成しただけじゃないのか?
たぶん100冊ぐらい挙げられている参考文献の中で,宮沢賢治や石川啄木の作品を除けば,自分が読んだことがあるのは中島岳志の『中村屋のボース』だけ。
(この本は,新宿中村屋のカレーの生みの親である,ラビ・ビハリ・ボースの話で,おもしろかった。)
もちろん,これだけの本を書くのは大変には違いないし,こういう本があってもいいと思うし,広く読まれていい本だとは思うが,自分はこういう本を読みたい訳ではない。
自分が読みたいのは,『会津という神話』(田中悟)のような,「う〜む」とうなるような本で,「へぇ〜」って感心するぐらいのペラい本だ。
浦辺がこの本を書いた動機というのが,「玄洋社とはなんだったかを知りたいと思ったから」だということだが,話があっちこっちに飛びまくってて,その目的が達せられたとは言えない。
単なる右翼の結社ではなく,アジアへの広がりがあったってのは分かったけど,まだまだ足りない。
あとがきに,「今後は,近代化の流れの中で行動した玄洋社と,無名であうことを誇りに思って書き残すことをしなかった玄洋社の人々を掘り返してみたい考えています。」とある。
その本を期待しようと思う。