今までの鉄道本は、プロのレールウエーライターか、趣味人か、せいぜい鉄道の経営者が書いたものであり、実際にその運行に携わる者が書いたものはなかったと言ってよい(過去に、ダイヤ制作者による名新書はあったが)。本書は、元運転士の書いたものである。そして、元運転士が書いた本というのは、思い出話程度なのではなのかという予測などは完全に吹っ飛ぶ。運転士というのが、いかに職人であり(線区の細かい知識や車両特性がいかに頭に入っているか)、責任感あふれる仕事人であるかがよく分かるし、細かな専門知識を平易に具体的に解説しており、どれだけ尊敬に値する専門家であるかがわかる。名投手の投球術解説か、名医の医学書かと思わせる一冊である。少なくとも昔の運転士(今も、だと思いたい)はこれだけの教養人であり専門家だったのかと感慨に浸れる。勿論、経験に裏打ちされた指摘も鋭い(運転台の時刻表の位置についてなど)。安全について語りながら、事故については語らないという筆者の哲学は最後に解明される。その立場に反論はないではないが、安全への提言は本書の各所にちりばめられている。要するに、鉄道書の中でも第一級の一冊である。マニア、いや日々鉄道を利用する人、必読である。