この本は零戦というタイトルがついているが、実際はすべての航空機を輸入に頼っていた黎明期から如何にして世界的レベルの国産航空機の開発と生産を実現したか、最終的に日本の航空機技術、産業がどのようなものであったかが記されている。現在国内で流通している零戦に関する書籍に見られる情報の多くは、実際はこの本を基にしているのではないかと思われるところも多々ある。零戦に関する他の書籍では零戦の軽量化はあたかも防弾や急降下速度とのトレードオフによって実現されたかのよう書かれる事もあると思うが、実際は、時期割れのリスクのあるジュラルミンESDを含めて全金属翼の繰り返し変動負荷に対する強度、耐久性に関する研究、フラッター限界速度の推定法、等の日本独自の研究開発がなければあれだけの軽量化は実現できなかったことがわかる。また操縦性についても単に低翼面過重の軽量機であったから良かったというだけでなく、昇降舵の剛性を意図的に落とす効き調整方、風洞実験による空力や機体安定性の改良、独自の翼形状についての研究等の賜物であり、これら日本独自の研究開発の成果をまったく知らず、二流の模造品しか作れない国とタカをくくっていた諸外国が謎の戦闘機として驚き恐れ、日本がそのようなものを作れるはずがないとして日本人の能力を否定するために零戦が他の外国機のコピーであることを証明しようと努力したのも無理のないことだと思う。最後に、零戦と同時期の外国機を比較した文献をしばしば目にするが、本書で三菱が海軍関係者に提出したとされる「外国の製造者であれば数字に表れる性能のみで満足し、数字に表れない運動性を犠牲にするであろう」云々という内容を含んだ設計方針を熟読理解することがなければまったく実情を理解せず机上の空論のような結論に至る可能性が大きいと思う。その意味でも必読の書だと思う。