山を滑りたい人であれば、読んでおくべき本である。
現在、日本語で手に入る雪崩に関する本で、最もまとまっている。ただ、まったくのビギナーが読むには、やや分厚く、ガイドやパトロールなどのプロが読むには引用文献のリファレンスがなく、使い勝手が悪い。あくまで、山岳滑走を多少経験した人が、包括的に雪崩の全体像を理解するための本として考えるのがいいだろう。
日本の講習会は、事故防止を唱いながら事後対策(レスキュー)ばかりのものが多い。トレンパーは、これとは対極に位置し、遭わないためにどうしたらいいのか、そのリスクを下げるにはどうしたらいいのか、という事前対策の記述に焦点を当る。
また日本は、雪粒と弱層テストの話が多い。しかし、ここでもトレンパーは、地形の取り扱いの重要性を繰り返し述べる。地形は初心者にとって、もっとも簡単にリスク軽減できる要素であるし、またベテランにとっても、積雪の多様性を知れば知るほど、その重要性がわかるはずである。
この本の良いところは、ヒューマンファクターにも触れていることである。通り一遍的な内容ではあるが、こうした本に含まれていることに意味がある。
星が5つとならなかったのは、後半の記述にやや個人経験論的な記述が入ってきていることである。なお訳について、ネガティブ・レビューがあるようだが、オリジナルの文自体が、トレンパー独特の冗長な表現となっており、ある意味致し方ないし、本の価値を下げるものでもない。もちろん、贅肉を削ぎ落とした訳を求めるなら別だろうが。