17歳のとき、この小説を読んでいたら、置屋に勤める母からお前に芸者のことなどわかるかと言われたのだが、日本人の情緒にぴったり寄り添っているこの小説には美しさを通り越して戦慄さえ感じたのだった。
山里の少女が歌う手まり歌。静かに死んでゆく虫たち。雪景色と鉄道。温泉町。そして献身と生活を一身に背負っている女。
確かに僕には男女の愛欲のことなどわからなかったが、日本人の原風景を見せ付けられるようだった。
登場人物の心も、物語りも、背景の自然も、日本でしかありえないようなリアルさを持ちながら、現実と夢幻の狭間に横たわっている。
日本といっても広いから、それこそ雪国でしかありえないリアルさというべきか。僕は越後の隣国の育ちである。
言わせてもらえば、この小説は深いけれど同時にあまりにもあざとい。つまり、美をかもし出すに都合がよすぎる。
物語が唐突に終わるのは、そのあざとさに収拾が付かなくなる手前に来たからではないだろうか。
こういうことを言っていいのかどうかは、文学者ではない私にはわからないが。