映画監督相米慎二はその短い生涯のなかで13本の映画を製作しましたが、その中にはアイドル映画的な作品も含まれます。しかし、相米慎二はアイドル映画といえど一切の妥協をせず、若手アイドルに対しても一人の俳優として厳しい演技指導を行ったことで知られています。
また、後に「相米節」と言われる長回しのカットや、芸術的なセンスを感じさせる度肝をぬくような演出手法には目を見張るようなモノがありました。
この作品、公開当時はかなり話題になった、当時はアイドル歌手に分類され、現在はベテラン女優の域に達した斉藤由貴さんの映画デビュー作です。
映画のスチールだけを見ているとセーラー服にポニーテールなので、ヨーヨーを操る「某有名テレビ作品」の主人公と間違われてしまいそうですが、凛としていて清楚さのある、ちょっぴりさびしげなヒロイン(夏樹伊織という名前でした)をちゃんと演じわけています。髪型(微妙に違う)メイク以外にどういうテクニックがあるのかわからないけれど、まなざしや、わずかな立ち振る舞いの差で雰囲気を大きく変えるコツがあるのでしょうか、このあたりが彼女の「非凡な才能」とか「オーラ」なのだと思います。
ストーリーは故・佐々木丸美さんの傑作小説(芥川賞候補にもなった推理小説)を原作としており、「不幸な生い立ちのため、金持ちの娘にイビリ倒される」「殺人事件に巻き込まれ、濡れ衣を着せられる」「苦しみながらも自分の力で乗り越え、成長してゆく」「そのプロセスの途中で真の愛に目覚め、最後は意中の人と結ばれる」・・・といった昔のアイドル系ドラマの保守本流(?)に最適なものです。この手の映画が好きな人にはうってつけだろう。しかしながら、編集段階で事件の謎とき(刑事役は故・レオナルド熊だ!)部分が大幅カットされてしまったので、やや物足りなく感じられます。
相米作品の常で、内容や演出が半端じゃない(笑)。養家から家出した孤児の少女を拾って家に連れ帰る雪のシーンの長いこと、手間のかかっていること。じつは超特大のセットを使い、100人以上で2日以上かけて、撮ったカットなのだそうだ。18シーン14分間をワンカットで撮るという、信じられないことをやっている。幼少時代の伊織役は後年、アイドルとなった小川範子の子役時代なのだそうである。
全編にわたり、幻想的で、どこかでもの悲しく、やたら長いカットが続きます。(相米監督の代表作でもある名作「セーラー服と機関銃」「ションベンライダー」等に酷似した演出も多く、「本編と脈絡なく、心象風景として道化や人形が登場」「画面の彩りのためか、無意味に造花や風船が並べてある」「雅楽や民族楽器などへんな音楽」「生きるか死ぬかの正念場で無神経に(笑)チンドン屋や宣伝カーが出現する」といった演出はソックリです。
相米監督といえば、他の作品、ほかの女優さんたちにも伝説的なエピソードが山ほどあるようですが(笑)。まず、ひとつひとつのカットがやたら長く、チョットしたミスで全部パーになるので、俳優さん達は大変だったようです。演技に対するコダワリがものすごく、斉藤由貴さんに限らず、新米女優は朝から晩までボロクソに怒られどおしだったとか。10月の北海道で川に飛び込んだり、吹雪の夜に荒波の打ち寄せる海岸の消波ブロックでのシーンはセットなのかロケなのかわかりませんが見ているこちらが、25年前の作品であるということを忘れてヒヤヒヤするほど、「彼女の身の危険を感じさせる」レベルだった。由貴さんは現在も活躍中なので、無事だったようですが、「某有名番組」よりよっぽどハラハラした。(笑)
相米作品に出演された若手俳優さんの多くが、その後も息の長い活躍されているところをみると、人を見抜く目と育成能力に長けた鬼軍曹みたいな監督だったのかもしれません。
「セーラ服と機関銃」が青春映画、相米映画のバイブルとして、現在もリマスター版などが発売され続けてているのに対し、姉妹作とも言える本作品はVHS・LD盤が早々と廃盤となり、DVD化もできないまま忘れ去られようとしているのは、相米作品としての完成度が高いだけに、本当に惜しいと思います。
本作に対しては、かねてからDVD化の要望も多いらしく、斉藤由貴のデビュー25周年前後に初期作品が次々DVD化されたときに、いちおう検討はされたようです。しかしながら、原作者がもともと映画化にあまり乗り気ではなかったことと、すでに相米監督共々故人であるため、可能性は限りなく低いようです。「光る女−デラックス版−」のような、カット部分を補完した完璧版がでればうれしいのですが・・。
なお、本作品についてはメイキング映像が別製品「A MAKING OF 雪の断章 −情熱−」(TA1368-V)として存在する。カットされたと思われるシーンや北海道でのロケ風景、東宝砧撮影所の様子、相米監督の演出風景+アイドル斉藤由貴のイメージ映像も含まれており、生産数が少なかったこともあり、今となっては映画本編より貴重。(30分)
原作者が夭折したこともあり、カルト的なファンを持つ原作小説も、長らく絶版となっていましたが、つい最近になって復刊ドットコムに取り上げられ、佐々木丸美コレクションとして、姉妹作ともども復刊されています。