数ある井上戯曲の中でも、もっとも映画化に向いていると思われる作品です。
冒頭、男たちが江戸の橋の下で雨宿りしている場面は、黒澤映画の「羅生門」を連想させます。
主人公の徳は、同じ場所で雨宿りしていた男の話から、自分が行方不明の金持ちに瓜二つだと知ります。
その金持ちは東北の紅花問屋の当主なのですが、くず拾いの徳は、彼になりすまして楽な暮らしをしようと考えます。
「太陽がいっぱい」のアラン・ドロンは、モーリス・ロネになりすますために声をまね、サインをまねる練習をしましたが、徳の場合は江戸弁を捨てて東北弁をマスターすることがカセになります。
彼が方言を学ぶ過程がよく出来ていて、ふんだんに笑わせるとともに、別人だとばれるのではないかとハラハラさせます。
徳の過去を知る人物が訪ねてきたり、いろいろな波乱のあと、ひじょうに見事なラストシーンを迎えます。このラストの衝撃は「太陽がいっぱい」以上かもしれません。
舞台で何度も再演されていますが、観劇の習慣のない人にもぜひ読んでみてほしい傑作です。