「雨あがる」は、黒澤監督の遺作の映画化という印象が強いと思う。事実、脚本は黒澤明自身によるものだし、スタッフも旧黒澤組。監督は長らく黒澤監督の助監督を務めた小泉堯史氏。
実際、この映画に晩年の黒澤映画の痕跡も見ることができる。しかし、やはりこの映画は小泉氏の映画だと思う。
黒澤監督の愛弟子ともいえる小泉氏は、確かに黒澤流のヒューマニズムを受け継いではいるが、もっと別の個性も持っている。穏やかで優しく人間を見つめる視線、明朗で健康的なヒューマニズム…黒澤監督の弟子の映画というよりも、小泉監督という新しい個性の登場を認めるべきではないかと思う。彼には彼の…黒澤監督にはない良い個性…があると思う。
映画全体を流れる穏やかで優しいトーンを見ていると、心が晴れてくるような気がする。浪人であっても、腐ったりすることなく、また侍として威張り散らすのでもなく、穏やかに普通に人としての誇りをもって生きている伊兵衛夫婦、そして周囲の人々との温かい交流。こういう描写は小泉監督ならではだと思う。
(黒澤監督だったらどう演出するか…観てみたかったとも思うが)
黒澤映画の常連だった(途中意見があわずに離れていった)佐藤勝氏の音楽も、画面にシンクロするように美しい。そして、三船敏郎氏の長男、三船史郎氏、セリフが少々棒読みだが声やその雰囲気がお父さんそっくりで、往年の黒澤ファンにはとても嬉しい出演だった。
本作は黒澤監督の遺作だが、同時に小泉堯史という優れた監督のデビュー作でもある。その新しい個性に賛辞を送りたいと思う。