樋口毅宏さんの小説はマフィアの凶弾に似ている。
「俺にはあんたの話(物語)がよくわかるよ。ああ、その価値がわかるさ」
そんなオタメゴカシで作品の評価を手打ちにしようとして、背を向けた瞬間、蜂の巣にされる。な、なんじゃこりゃあ。
過去三作の中で、樋口さんの醍醐味は「さらば雑司ヶ谷」のようなエンタメ力もさることながら、「日本のセックス」や「民宿雪国」のような人間の業に迫る力にあるのではと考えていたため、「日本のセックス」や「民宿雪国」を凌ぐことはないのではないかと思っていた。すんませんでした。
本作では、ノンストップエンターテイメントの筆力と人間の業を描く筆力の二刀を用いて十字を切り、Rest In Place -安からに眠れ- と、完膚なきまでに神を殺してしまった。過去の作品を別の角度から遥かに凌駕する傑作だったと思う。まじで。
A面は、太郎が偉大なる神(教祖)である泰を葬る物語、同時進行のB面は、朴訥とした田舎娘だった泰が神になったかを語る物語。
この作品の構成を語ることは、基本的に「Godfather PART II」(74年)を語ることになる。見たことがある人には、その魂が受け継がれていることを、見たことがない人には、アカデミー賞9部門ノミネート、そのうち作品賞・監督賞・助演男優賞・脚色賞・作曲賞・美術賞を受賞した不朽の名作であることを書くに留める。てか、見たことないとかそういうこと言わないで、特に男。
B面の、少し人を惹き付ける要素を持っただけの平凡で慎ましい女が、その野望を徐々に膨らまし、才能を開花させていくさまに、静かに力強く引き込まれていく。その背景となる昭和の戦中戦後のつぶさな社会描写が、豊かに干渉しながら伸び縮みし、大河ドラマの醍醐味を堪能させてくれた。
シリアスなトーンに思えるかもしれないが、徹底して神を嬲り殺す破壊と再生の物語は、荒唐無稽なユーモアとサービスに満ちている。
激しいバイオレンスが好みでない人も、「-R.I.P.」を読むために「さらば-」を読んでもいいと思う。まぁ、さらに激しい描写てんこ盛りなんだけどね。
個人的には、影のヒロインである雅子のイノセントなトリックスターぶりが心に残った。
そして悪寒のような戦慄を残しながら物語は終わらない。
巻末の参考文献のラスト数行には、出先で声を殺して笑ってしまった。