本書は,フロイト以後の精神分析家のうち,
筆者が臨床上とくに重視している精神分析家の仕事を,
コンパクトに,噛み砕いて,わかりやすく講義している。
筆者がとくに重視している理論は,英国対象関係論であり,とくに
クライン,ビオン,ウィニコット,バリント,フェアバーン
の5大理論を詳しく紹介している。
おそらくわが国で読める,英国対象関係論の最高の入門書であろう。
それぞれの理論も,
クライン乳児 外的対象と関係してない 悪い母親を投影している
ウィニコット乳児 外的対象と関係してない 見えない良い母親に守られている
バリント乳児 外的対象と関係している 良い母親とくっついている
フェアバーン乳児 外的対象と関係している 悪い母親を取り込んでいる
と見事に整理されている。
その紹介の仕方も,
それぞれの精神分析家の生き様(時折ゴシップ)と密着させていて,
生き様や臨床経験の違いが理論の違いを生み出す様子を
上手く描き出しているため,
すごく生き生きとしている。
物足りない点をあえて挙げるとするならば以下のとおり。
・自我心理学ないし現代フロイディアンの紹介が薄い。
とくにゴリゴリの機械的な自我心理学を,
臨床体験に近いフレンドリーな理論に書き直して,
精神分析の「静かな革命」を引き起こしたジョセフ・サンドラーを
「ものすごく頭のいい人」と一言で片付けているあたりに
ちょっと偏りを感じなくもない。
・自己心理学やコフートを全く紹介しないで「精神分析とは思えない」
と切り捨ててしまうのはいかがなものか。
・ひとことでいうとアメリカが嫌いなんでしょうか。
でも,精神分析を学ぶ上で,もう避けて通れない教科書だと思います。