古今東西、恋愛小説の傑作はいくつもありますが、他を断然引き離して私のダントツ一位なのがこの作品です。
読む度に胸が締めつけられ、切ない余韻がいつまでも残る。若い時からこれは変わりません。
女性の自活の道が閉ざされていた明治の世。
ゲスな金貸しの囲い者として人からさげすまれ、うっ屈した日々を送るお玉は、
ある日、妾宅の前を通りかかった美貌の帝大生、岡田に恋心を抱きます。
身分違いの恋とは知りながらも、岡田に対するお玉の思いは日々に募って、抑えがたいものになっていきます。
そんなお玉に訪れた千載一遇の機会。
岡田を宅に迎え入れ、親しく言葉を交わせるかもしれないチャンスが、ついにやってきたのです。
お玉は念入りに身支度を整え、大胆にも道まで出て、岡田をじっと待ちます。
しかし、ついに現れた岡田は…
たった一度のチャンスが悪意のない偶然によって虚しくついえ去っていく悲しさ。
お玉の張り裂けそうな胸の内が、息苦しいほどに伝わってくる名シーンです。
鴎外の作品は出来不出来の差が激しいのですが、これは文句のつけようのない出来。
文章も非常に読みやすいですし、鴎外は初めてという人にもおすすめです。
日本が生んだ恋愛小説の傑作をぜひお楽しみください。