この作品の面白さは、皆さんすでにお書きの通り。黒澤明の作品群の中で1・2を争う、”面白い”・”楽しい”アクション映画の傑作である。初めは太兵(千秋実)と又七(藤原釜足)の漫才さながらユーモアあふれるやりとりに笑い、次には真壁六郎太(三船敏郎)のカッコ良さに痺れる。そして回数を重ねるうちに、雪姫(上原美佐)の気高い美しさに心打たれる。
とかく”スターウォーズの原点”と言う表現はされるが、身分の高いお姫様がひょんなことから庶民のありのままの姿を見て自らも体験する、という観点から見ると、”黒澤版『ローマの休日』”とも言える作品である。貪欲な百姓コンビとの出会いから、宿場町で戯れる子供たちを見る優しい眼差しなざし、上田吉次郎演じる卑しい人買いに対する怒りを秘めた眼差し、火祭りでみんなと踊るときの楽しい表情、そして逃亡中に一息ついて鳥のさえずりをしみじみ聴いているときの何ともいえない美しさ(一瞬、三船演じる真壁六郎太が見とれてる?)、これらの体験が「たとえ打ち首になっても悔いはない」という台詞につながってくると思うと、これらの何気ないシーンが非常に心に響く。
そして人知れず涙を流しつつも、秋月家の後継ぎとして厳しい運命を背負う覚悟をしている凛々しい姿が心を打つ。主を守るために命を投げ出す家臣に対しては「命に何の代わりがあろうぞ!」と怒り、秋月家の領民が不幸な身分に身をやつし見過ごすことができない場面では「お主は姫の心まで唖(おし)にするつもりか!」と憤る。そして極めつけは、いよいよ敵に追い詰められ真壁六郎太から(秋月家ゆかりのものと思われる)小刀を受け取る瞬間の誇り高く凛とした表情である。上原美佐の演技のつたなさに対する批判をよく目にするが、男勝りでありながらも気品があふれ、誇り高くも優しい心を持つという、非常に難しいこの役柄を見事に演じることが出来るのは、古今を通じて彼女をおいて他にないだろう。また、まったくの素人であった彼女を抜擢した黒澤明の慧眼にも、ただただ感服するばかりである。