8つの物語でそれぞれの秘剣を操るのは、日頃は影も薄い冴えない下級武士。とても秘剣の伝承者とは思えないような男達がお家の一大事、お上の命を受けやむを得ず隠剣を使う。それも一瞬のうちに。その剣のために命を落とす者もいる。
なにゆえ、この男達は貧しい暮らしの中で秘剣のことをひた隠し、毎日額に汗し泥にまみれ、手のひらのような小さい幸せの中に生きながら、ひとたび命を受ければ、その全てを捨ててまで剣を使うのか。日頃思い描く武士や侍とは少しちがう男達である。しかし、いずれの使い手もまちがいなく男の生き様である。
この作品は、これまでの藤沢周平の作品の中では、こころなしか主人公の周囲の女達の恋慕や情、欲といったものが色濃く描かれている。それが余計に男たちの潔さを引き立てている。
藤沢周平の描く時代劇は、無情さと切なさの中に不思議とさわやかな清涼感がある。