あとがきで著者自身が述べているように、矢ケ崎氏も広島原爆被爆者の家族で、物理学者でありながら米軍と日本政府による沖縄の核基地化に反対して闘い、その後原爆症認定集団訴訟に加わってからは、政治の為に歪められてしまった科学を真理追究の科学であるべきだと訴え続けている。
原子爆弾のメカニズムと放射性降下物の散逸状況についても分かり易く説明されているが、ここで著者が強調しているのは内部被曝で、放射能を含んだ塵埃の吸飲や汚染物質を体に取り込むことによって、放射性原子が体内に固着した場合、電離作用による分子切断が生じる。それが遺伝子の変性や細胞の死滅を惹き起こす疾病につながる。そうした過程が図解と試算を通して詳述されているのが特徴で、現在福島を中心に進行中の内部被曝とその原因となる放射線の核種やその崩壊系列を正しく認識するには非常にタイムリーな手引きである筈だ。
日本政府は内部被曝を無視して、原爆投下後市内に入った者に対する被曝認定基準は投下から二週間以内、爆心地から半径2km以内という全く根拠に欠ける基準を設けていた。しかし原爆投下後13日目から救護活動の為に入市した、三次高等女学校の生徒達の生存率が全国平均のほぼ半分というデータも示されている。しかも戦後間もなく進駐したアメリカ軍のD586による線量調査は、枕崎台風によって放射能がすっかり洗い流されてしまった後に行われている。そこには既に汚染の実態を意図的に過小評価し、被害状況を隠蔽する計画があったようだ。