東京・文京区出身の友人が結婚後、文京区に住むことにこだわっていた。最初は賃貸マンション、続いて分譲マンションをローンで購入。東京出身でない私には、なぜ家賃やローンの負担が少なく、物価も安い下町方面に住もうとしないのか、その心理が全く理解できなかった。
本書を読んでその心理の一端を理解できた。同じ「東京」に住んでいながら、現実には、言葉も、文化も、思考方法も違う山手と下町の人々。そこには「東京」という一体感は見られない。著者は歴史的経緯と明治以来の下町と山手の変化を概説し、さらに23区ごとの平均所得額、生活保護率、平均寿命、中学生の国語の平均点などのデータと、フィールドワークを通じて現在の姿を描き出す。文京区内での千川沿いと小石川・白山の対比、港区内での六本木ヒルズ方面とJR田町駅付近沿線の対比など、この本の主要テーマである「山手と下町」という通念だけでは浮かび上がらない格差もきちんと追っている点が好感が持てる。
ただ、「階級」という視点での分析に異論はないものの、そのカテゴライズの基準には若干疑問は残った。著者が「資本家階級」として描き出している層には多分に高所得の労働者層が含まれているように感じる。せっかくマルクスを引き合いに出すなら、現代資本主義分析に基づく「資本家(階級)」と「労働者(階級)」の定義に説得力を持たせる必要がある。そういう意味では、分析の方法論に頁を割くより、データの分析とより多くのフィールドワークを重ねた方がいっそう意義ある一冊になったのではないか。