陽水の初期の四枚のアルバムはどれも傑作だと思うが、私はこの「センチメンタル」が一番好きである。画期的な楽曲創りを目指した衝撃のデビュー・アルバム「断絶」とトータル・サウンド指向のミリオン・セラー「氷の世界」、「二色の独楽」に挟まれ、若干地味な印象を与えるが、収められた個々の楽曲の出来栄えと言い、素の陽水の独特の魅力が味わえる点と言い、私にとってはベストのアルバム。
いきなり「つめたい部屋の世界地図」で聴く者は異次元の世界へ運ばれる。遠い異国へ旅立つ際の、希望、不安、畏怖の念を、「地図」やカモメを題材として用いた新鮮な切り口と透明感溢れる曲想で表現した秀逸な曲。そしてこれらの念は、主人公が世界地図を見ながら一人空想に耽っている孤独の姿なのである。多くのアーティストに採り上げられている「東へ西へ」は、単純なラブ・ソングを捻りに捻った支離滅裂な歌詞と狂騒的なサウンドで仕上げた如何にも陽水らしい曲。「白いカーネーション」は単純な牧歌の様だが、歌詞の途中が小節の先頭に来ると言う、Beatlesの「Come Together」を思わせる癖のある曲想で印象に残る。「神無月にかこまれて」は着想が独創的で、この斬新な詩が切れ味鋭いサウンドで歌われる姿は画期的そのもの。「夏まつり」、「紙飛行機」と言った本来は楽しいイベント・オモチャを哀感溢れる曲に仕立て挙げるのも陽水らしさ。そして、「能古島の片想い」。単純なラブ・ソングなのだが、2番と3番の間に転調部分を入れ、これもBeatlesの「A Hard Day's Night」等の曲構成を想起させると共に、各フレーズの最後の行の音程が階段状にステップ・アップする快感が堪らない(特にカラオケ時)。私の一番好きな曲。
「断絶」よりはソフィスティケートされており、後続のアルバムに比べてガジェットの詰め込みが少なく、陽水の独自の世界がストレートに伝わって来るマイ・ベストアルバム。