「万二郎、行くな」
その生き方ゆえに、婚礼直後上野に立て篭もる彰義隊に歩兵組を率いて出発しようとする伊武谷万二郎に手塚良庵が叫びます。
心の中で自分自身も叫んでしました。
敵と味方が激しく入れ替わる政争に巻き込まれ、どう生きてよいのかわからなくなった人々の中で、あくまで、徳川家臣として筋を通した男。
朽ち果ててゆく武士の時代に、あくまで武士として生涯を貫いた男。
上野戦争が終わって、官軍総司令官の西郷隆盛が伊武谷家を訪ねます。
「歴史に書かれねえで死んでいったりっぱな人間がゴマンといるんだ」良庵は西郷に突っかかってゆきます。
歴史は英雄だけが作ってきたものではない、ということを手塚先生は語りたかったのでしょうか。
万二郎は、無論架空の人物ですが、『陽だまりの樹』で彼が示した生き様は、決して忘れることはできないでしょう。