今から30年ほどもまえに小学生のころ読んだ戦記本で、名前まで覚えていたのは陸軍軍人ではこの今村中将(後に大将)である。その内容は勇ましい話ではなく、今村中将のインドネシアでの軍政の評判とか、輸送船が沈められたき重油まみれの顔で笑ったとかそんな話であった。日本軍が第二次世界大戦中にアジアで快進撃したとか、蛮行をはたらいたとか、いやそんなことはないという話はよく聞く。そんな中で今村中将の話が小学生の印象に残ったのは、やはり、無意識のうちにもっていた日本軍へのひけめに対して、インドネシア人から受け入れられ、連合国も容易に罪にとえなかった人格者が日本軍人にいたという誇りや安堵感を感じたからだろう。そんなことからかふと中古本屋でタイトルを目にした時に手にとってしまった。内容は、戦場における勇ましい英雄談や日本賛美や連合国への敵愾心をあおる内容ではなく、一人の人間としての生き方と、彼をとりまく日本人の生きぶり(戦いぶり)で占められている。そしてそのような彼の姿をやはり心ある連合国の人は認め、そこに生じた人間としてのつながりが彩を加えている。この今村中将に比して、とかく世知辛い世の中に、今の自分のふがいなさの口実を求める自分の怠惰や幼稚性を感じずにはいられなかった。
文章はたんたんとしたものだが、それがむしろ今村中将の自然体をそのまま表しているようである。なかでも引き上げ船から日本の陸地をみたときの日本人の描写は装飾はなにもないが、静かにかみしめるようなものであり、心のうちでなけた。
人は人の生き方から学ぶのだとするのなら、「軍人=軍国主義」というような単眼に陥ることなく、こういう人間の存在を伝えていくことが今の教育において重要ではないかと感じる。