本邦初紹介となるルイス・ベイヤードの19世紀ミステリー大作。陸軍士官学校を舞台に繰り広げられる猟奇的な連続殺人の謎に、若き士官候補生・後の“ミステリーの始祖”文豪エドガー・アラン・ポオが挑む。
’06年度「CWA(英国推理作家協会)賞」のエリス・ピーターズ・ヒストリカル・アワード(最優秀歴史ミステリー賞)、’07年度「MWA(アメリカ探偵作家クラブ)賞」ベスト・ノヴェル(最優秀長編賞)のそれぞれノミネート作である。
時は1830年の10月から12月。引退した元ニューヨーク市警の警察官で48才になるガス・ランダーは、ウエストポイント陸軍士官学校校長セアー大佐から、決して表沙汰にしないという約束で、首を吊って死んだ士官候補生の遺体から心臓がくりぬかれるという奇妙な事件の調査を依頼される。承知したランダーは、運命的な出会いをした候補生のポオを、校内を内偵するための助手とする。かくしてふたりの捜査が始まるが、下巻にいたって第2の殺人が・・・。
本書は、1931年の、冒頭から衝撃的なランダーの遺書から始まり、全編にわたって彼の手記、そしてそこかしこにポオからランダーに対する報告書という体裁をとる。決して歴史的な事件を題材にしている歴史ミステリーはなく、純粋な謎解き小説であるが、そこにはポオの“詩情”(それにしても若き日のポオはこんなにも饒舌で規律破りの問題児であったとは)とランダーの“幻想”を垣間見ることができる。
宗教的・神秘的・霊的な真相と悲劇的な解決がみられるが、物語はそれでは終わらず、さらにどんでん返し的な2番底が存在した。まさに本書は手記という語り口自体をトリックにした、詩と暗号に彩られた本格ミステリーである。