陸軍墓地と聞いて最初イメージしたのは、靖国神社や忠霊碑のような戦争遂行のための顕彰施設であった。しかし、本書を読むとそんなイメージは打ち破られた。陸軍墓地が創設された理由には顕彰のような意図もあったのだろうが、敗戦後はそれ故に負の施設として関係者によって細々と維持され、遺族の鎮魂の念を受けとめる本来の墓地として機能してきたようだ。だが、それも遺族の高齢化や墓碑や施設の老朽化が進行し、その存続も危ぶまれるのが現状だという。
大阪市内にある旧真田山陸軍墓地は、全国各地に散在する陸軍墓地の中でもその歴史と規模において突出し、5299基以上の個人墓と5基の合葬墓、4万3000人以上の遺骨や遺髪などを納めた仮忠霊堂がある。本書は、旧真田山陸軍墓地の多角的な調査と検証の論文集である。
一つ一つの墓碑銘を読み解くことで日本近代の戦争の様々な実相が見えてくる。たとえば、明治5年に病気か事故で死没したものは50人、この時の大阪鎮台の現員の50分の1に上るという。強健な青年たちのこの死亡率の高さ、過酷な兵営生活が想像できる。西南戦争で負傷、罹病して病院が設けられた大阪で亡くなった兵士たちも1000人近くを数える。記載された負傷日の統計から戦況の推移をたどることができる。日清戦争や第一次大戦で捕虜になった敵国の兵士たちの墓碑もあり、日本兵と変わらず丁重に葬られていたことが分かり、後年の日本軍の捕虜虐待とは異なる意外な事実を知ることができる。
著書たちは、旧真田山陸軍墓地の調査・研究のかたわら戦争遺産としての維持保存を呼び掛ける。墓地が歴史をかたる戦争遺産である所以を示す好著である。