注意しなければいけない。本書は「中野学校とは何か」に応える本ではなく「中野学校周辺で行われた工作について著者が調べた話」を書いた本と言うことだ。著者の中野学校周辺に関する色んな取材の断片を寄せ集めてみた、という感が強い。序章に中野学校と密接に関わった「昭和通商」なる商社の話が出てくる。だが昭和通商の話は1章で終わり、次から次へと違う話が飛び出る。後半は特にひどく、巻末に付記としてアメリカの対日参戦に関するソ連情報機関の関わりが掲載してしまっているのが、本書のまとまりのなさを象徴している。加えて、章立てと時系列が全くかみ合っていない上、語り手が多く、ついて行くのが苦しい。「内調が管理するロケットの分解能が民間並みだなど」という下りで「何が中野学校の話なんだ」と本を投げ出したくなった。
新書でこういうタイトルの本を出す場合、紙幅が限られているし、タイトルについて一通りの知識を得たいというのが主な読書の動機のはずだ。だから、時系列に従いエピソードを交えつつ概略を追う、あるいは一人の重要人物ないしは重要トピックにスポットで当ててミクロな視点からテーマを照らし出すという方法があると思うが、本書は全くそうではない。中野学校について知りたいという疑問に応えてくれるのは2章のみで、あとは旧陸軍、情報機関についての予備知識や高い関心がないと非常に退屈だ。
新潮新書の時も感じたが、著者は、旧陸軍情報機関の本を多く出しているんだし、中野学校や特務機関とは何かを解説する概説書など造作もなく書けるだろうし、新書の読者はそうしたものを求めている。中野学校や特務機関を概略的に書いた本はあまりないので、そうした本への期待と昭和通商の話は面白かったので、☆は2つ。