短編である。けれど、時おり難解な文字にぶつかる。そこは
仕方ない、読み飛ばしても支障ない。
サムライと殉死の問題を扱った本書。乃木希典が明治天皇に
殉じたときの「潔さ」とは打って変わって、「殉死」するにも
できなかったサムライの話である。ちょうど乃木の殉死騒動に
前後して書かれた本作は、当時の現実社会に対する鴎外の
メッセージともとれるのだろう。
そんな背景は抜きにしても、本作は文句なく面白い。
江戸時代当時、家来は、まだ生きているときのお殿様に、
「上様がお亡くなりになったら、後を追って死んでもよいで
ござるか?」とのお伺いを立てねばならなかったらしい。
(少なくとも本作ではそのような設定である)
それで「よいぞ」と答えられれば「無事に」殉死できるのだ
けれど、本作の主人公、殿様に疎まれていて、OKサインが
出なかった。そして、いざ殿様が死んで、周りの重臣たちが
後を追って死ぬ中、主人公が取った行動とは……
紋切り型の「義理」的サムライ像をくずす、もっとえげつない
人間的なサムライを書いた鴎外には「はは〜」と、こうべを
垂れたくなった。
サムライ、ハラキリ、フジヤマ〜といったステレオタイプな
日本像を抱く外国人にこそ、分かりやすい翻訳で読んでもらう
べきなのかも。あるいは、そんなステレオタイプな日本像作り
に一役買っちゃう「美しい国」ラブな方々にも。冷静にハラキリ
を考えよう、みたいな。
臨場感、リズム、迫力。どれをとっても珠玉の一作。