「神亀」といえば、ぼくが最初にはまったお酒の一つだ。80年代後半、ときどき渋谷西武の食品売り場でお酒を買うことがあったのだけれど、そのときに比較的よく買ったのが、神亀の原酒であり、発泡性のお酒であった。友人に「神亀」ファンがいて、よく持ってきたというのもある。強いインパクトを持ったお酒で、当時のぼくはそういったお酒をよく飲んでいた。本書のタイトル「闘う純米酒」というのは、まさにその通り、アグレッシブなお酒である。
神亀酒造といえば、かなり早い時期に、全量純米酒にした蔵でもある。ぼく自身、純米派の人なのだけれども、それはこの蔵の影響もある。とはいえ、では造りをそのように切り替えていくことが、どんなに苦難の途であったのかは、なかなか知ることがない。三倍醸造酒があたりまえのように造られる時代に、あきらかに利益が上がらない(少なくとも短期的には)方向に進んでいくだけでも、たやすいことではない。だが、実際はそれだけではなかった。税収第一を考える春日部税務署との闘いもそこにはあった。「神亀」は二〜三年寝かせておいた方が、豊かな味わいになってくるのに、税務署はそれを不良在庫としか見ない。アル添して税金をたくさん納めないことによる嫌がらせだ。そして、こうした行政の態度は、小川原蔵元を徹底した国への不信へと導く。このことはやがて、小川原蔵元自身が、成田空港闘争にかかわり、芝山で酒米を作るということにもつながっていく。
本書はこうした神亀酒造の小川原蔵元を軸に、周辺の蔵や酒販業界の動き、小川原蔵元を支えた祖母のくらさん、「トトロの森」のような蔵で働く蔵人たちにも焦点を当て、単に「神亀」がどういうお酒なのか、だけではなく、そのさまざまな背景を映し出す。あるいは、実は背景そのものがむしろ主役かもしれない。また、ビジネス書として見たとき、蔵元の闘う姿勢とともに、お酒は「お互いに個性的である限り、競争相手ではない」というポジショニング、純米酒にこだわることによるブランディングは、学ぶところが大きいはず。
それにしても、攻撃的な蔵元の下で働く蔵人もけっこう大変である。ぼくはヤダ(笑)。