声や音が、色や形に見え、殺人や破壊衝動を感知できる共感覚少女、音宮美夜が、連続殺人事件の犯人チャイルドと目された、元警察官僚の老人、最上を探るべく派遣されます。
この老人が何とも気味の悪い言動の持ち主であるうえ、ひょんなことから美夜と知り合った少女愛澄の祖母もまた、「ぬるい声」で孫を精神虐待するやりきれない存在です。愛澄の知人で美夜をものにしようとする大学生も、読んでいて生理的に嫌悪をもよおすような性格で、作者はあえて〈悪趣味〉(バッドテイスト)な世界を作り出そうとしたようです。
全体をつらぬくテーマは、タイトルどおり〈月〉。月のめぐりがキーになっており、最上の孫娘と愛澄を結ぶ呪わしい糸になっています。
本作の謎解きには『キョウカンカク』にひきつづいて、共感覚者の宿命ともいうべきものが絡んでいますが、こちらのほうが破綻は少なく、ミステリとしてはほぼ完結したかと思います。とはいえ、すべてにおいてたがが外れ、斜めにかしいだようなパーソナリティの人物が多すぎ、読後感は心地よいものではありませんでした。
異常なはずの美夜が一番まっとうに見え、男装しての捜査シーンなど、見せ場はありましたが、安手のきらびやかさが破片のようで痛々しい感じも。
しかし読んで1日ほどたつと、なぜか執拗に浮かんでくるのが、共感覚の描写のあれこれです。オーケストラが夢のような映像世界に見えたり、痛みが美しい綾取り模様に見えたりする、その描写が心に焼きついていました。この点は、作者のオリジナリティとして捨てがたいです。
この設定で、もう少し深みと救いのあるミステリが書かれることを願っています。