「死の接吻」など実はフィルム・ノワールを何本も撮っているヘンリー・ハサウェイ監督の作品。他のフィルム・ノワールと異なるのは女性の役割の違いだろう。フィルム・ノワールは男の世界という感じがするが、この作品は「ルーシー・ショー」でスターになるルシル・ボールの存在感が大きい。単なるアシスタントではなく、先が読めなくなった(闇の曲がり角の先にある真実が見えなくなった)主人公を励まし、推理し、行動するファム・ファタールだけではないノワールの中心人物としての存在感(明らかに主役)を出しているところが違う。
そして、ファッションだけではなく前半の主人公の探偵との関係がどこか「ブレード・ランナー」のレイチェル(ショーン・ヤング)に重なると思ったのは私だけだろうか。
ストーリー展開は極めて緻密で主人公が罠にはまっていく過程にスキがない。そのため、後半、真実に近づくたびに目の前で手がかりがなくなっていく悲壮感が素晴らしいが、逆にラストにいたる展開があまりに偶然に左右されているところが不満。
傑作「ローラ殺人事件」でも女性に対する偏執的な愛情を持つ男性を演じたクリンフトン・ウェッブがまたしても似たような役を演じているところもちょっと意外性がない。ハサウェイ監督の「死の接吻」はリチャード・ウィドマークのいかれたキャラが際立っていたが、この作品にはそういう点もないのがもの足りないが、女性との共同捜査という今では普通となった設定を確立した作品としては極めて重要。いくつか不満を並べたが、相変わらずフィルム・ノワールとしての魅力である光と影のコントラストや主人公の仕種(特にタバコに火をつけるシーンはかっこいい)は最高だし、ルシル・ボールの魅力もノワールにマッチしている。ある意味フィルム・ノワールとしては異色ではあるが手堅い逸品だろう。