初出時に「イタリアの秋の水仙」だったタイトルは「闇の奥」に改題された。「闇の奥」と言えば、アフリカ奥地を舞台に西洋文明の暗黒面を描いたジョゼフ・コンラッドの古典的名著が思い出される。コッポラ監督がここからベトナム戦争を背景に「地獄の黙示録」という新たな作品世界を描いたように、著者もまた、独自の世界を構築しようという難題に果敢に挑んだ1人のようだ。
太平洋戦争末期、矮人族(ネグリト)と呼ばれる小人を探し、ボルネオで消息を絶った民族学者の後を追う物語。戦後まもない時期から現在(2009年)に至るまで、和歌山からボルネオ、雲南、チベットへと舞台は広がりながら、5次にわたる捜索劇が繰り広げられる。「和歌山毒物カレー事件」などの史実を織り交ぜ、時には実際の新聞記事を引用するなど、虚構と現実の世界を往復しながら、読者を作品世界に引きずり込む手法はお見事。次第に実際の出来事ではないかとの錯覚にさえ陥った。
息もつかせぬ冒険譚。