第1は、日米関係史の知られざる一面を教えてくれたことである。関東大震災の折に、米国からの援助があったことは知っていたが、細部については情報がなかった。米国が、ベッド6000床をはじめ度肝を抜くようなスケールで資金、物資、医者、看護婦を送ってきた事実、それも76年前という時点で行われた点に驚きを禁じ得なかった。
米国はクーリッジ大統領自ら先頭に立って募金集めを行い、対日航路は援助物資の輸送に特化するように命じたという。英、仏、中国も先を争うように日本を支援した。外国からの支援など予想していなかった政府は震災で情報網が被災していたこともあり、受け入れに大混乱となる。このあたりは阪神・淡路大震災と同様である。
第2に興味深いのは、各国は人道的見地から援助を行ったことは間違いないが、それぞれに外交、政治的意図があった点である。米国には、排日問題で冷却化した日本との関係改善、さらには、大震災の前年のワシントン会議で確認した日米相互協調を実践するという目標があった。同時に救護団300人は、しっかりと日本を観察し、復旧にあたる青年団などの団結力は、「誤った方向へ向かえば軍隊をしのぐ暴力組織」となりうると書き残している。現在の米国外交の底力を見せつけるような情報収集力である。
また結局は断ることになる誕生間もないソ連の援助には、日本側が察知したように革命イデオロギーの宣伝という意図があった。先月の台湾中部大地震でも、中国の援助を台湾は婉曲に断ったが、その理由も、中国共産主義への警戒心と、大地震を利用して冷却している関係改善を図ろうとする中国への反発であった。
第3に、感心したのは、大震災と日米関係に焦点を当てただけではなく、その十数年前に起きたサンフランシスコ大地震の際の日本の対米支援、排日移民をめぐる対立、当時の日本が国際社会で置かれた立場などについて、1章を割いている点である。登場する人物描写も丁寧で、それらが相まって、ストーリーの展開が、立体的となり、引き込まれるようにしてページをめくった。中長期的な日米関係を論じるには必読の極めてすぐれた書物と言えよう。ただ1つ残念なのは、答礼の使節として訪米した女性とのインタビューを行ったと、あとがきで記しているにもかかわらず、それが十分に記述されていない点である。
(慶応義塾大学教授 草野 厚)
(日経ビジネス1999/10/18号 Copyright©日経BP社.All rights reserved.)
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