本書はわかりやすい上に、どんな立場に立ってセラピーを行うにしても、治療者にとって間主観的な感性の大切さが痛感できる著作であると思います。
Kohutの自己心理学〜Stolorowらの提唱する間主観性理論の流れと、それと並行するSternの乳幼児精神医学の貢献をベースに、章毎ににテーマを変えながら、「間主観的感性」の理論的なお話だけでなく、その適用範囲の広さを紹介した内容です。
古典的な精神分析では、治療的に成功すると患者の中に「性格構造の変化」が起こると言われますが、それを聞いてもいまひとつ腑に落ちなかったものが、間主観的アプローチは葛藤の根底にOrganizing principleなるものを想定しているとのことで、その変化が治療に結びつくと言われると、なるほどと肯けました。
本書では、Sternが間主観的な関わり合いの研究目的にモハメド・アリのボクシングのビデオを研究したという逸話が紹介されており、また間主観的な見方に立った日本の大学紛争の解釈の一例も取り上げられており、単にセラピー内でのやり取りに限らず、家族とのコミュニケーション、さらにはプロ棋士による将棋対局における駆け引きなど自分なりにいろいろ応用してみるとさらに面白く感じられました。
ただ間主観的なアプローチというのは言うは易く行うは難しで、著者自身「ゴルフというのはパーでボールをホールに入れるだけのこと」と言うのと同じという例を挙げていますが、本書の中で症例提示者となっている森さんが言われているように、その感性をどのように養い、身につけていくかというのが大きな課題になると思います。