松本健一氏が1993−94年まで『週刊エコノミスト』に連載したシリーズを底本としています.司馬氏の『この国のかたち』を多分に意識した題名が付与されていますが,松本史学を忠実に反映した学術的内容の濃い論考です.一般誌に連載していた内容ですので,平易な表現が貫かれていて楽しく読み進むことができます.閉塞の時代と呼ばれる現代と対比させて読むと,幕末の志士や思想家たちのリベラリズムやパトスが伝わってきて少し元気になれます.
鎖国に対する開国,佐幕に対する尊皇攘夷,といった単純な二項対立ではなく,海洋国家として国際的な貿易の仕組みを確立し,対等な外交関係を確立するため海軍力を育成し,封建制による旧弊な身分制度を超克して近代社会への変革を目指した思想家,志士たちの群像が愛情を込めて丹念に描かれています.思想家としての佐久間象山の先見性,革命家として純粋でありすぎた吉田松陰,奥州列藩同盟の中で公武合体による国家像を目指した会津人脈,敬天愛人の言葉に秘めた西郷隆盛の思想,自由奔放にリベラリストであることを貫いた坂本竜馬,富国強兵論を説いた横井小南,etc.江戸末期から明治維新に至る変革の過程でこれらの多様な人材が見事にシンクロし,日本が近代国家として生まれ変わる礎となったのだと思います.
本書に登場する人物に共通する生き方はどれも「必死さ」というキーワードに収斂できます.時代の変革期にあっては,パラダイムシフトのための爆発的なエネルギーの蓄積と発露が必要なのでしょう.敗者も勝者も必死に時代と切り結んだ結果が,江戸末期から明治維新への歴史の転換期に偶然重なったことが与えられた資料から読み取れました. 余談ながらNHK『龍馬伝』で貫寺谷しほりが好演した龍馬の江戸滞在中の恋人千葉さなの消息のことにも触れられていて参考になりました.