わたしはいつか市電路線の終点に近づいている。大町から弁天町、函館のもっとも古い部分だ。通り沿いには、一階はは格子戸を立てた古風な商家で、二階は下見板張りペンキ塗りの壁に上げ下げ窓を並べた、和洋折衷の建物が目につく。・・・・このあたりでは昼間もシャッターを立てきられ、あるいは窓も釘付けにされて無人のまま放置されている。まだ夜の七時にもなっていないのに開いている店もなく、明りの点る家もまばら・・・・・。ここまで来ると、古い函館がゆっくりと枯死しかけていることがはっきりわかる。けれど私はそんな、死にゆく街が嫌いではない。(本文から引用)
函館・入船町の山麓に市の火葬場がある。そのさらに奥に建てられた豪邸「雪華荘」を舞台に繰り広げられる怖いお話だ。かつては栄華を誇ったがいまは病身の父親、その継母、そして先妻の2人の子供(そのうちの"妹"が語り手という設定、いわばシンデレラ状態)と継母の連れ子の娘2人の間に起こる遺産をめぐる葛藤が主題。不気味な邸では驚愕の結末が待ち受ける。
著者は約1週間の函館滞在でこのホラー小説の着想を得たという。上記の「雪華荘」はもちろん実在しないものの、リアリティは十分。市内のあちこちの描写は非常によく書き込まれていて飽きさせない。函館山、立待岬、西部の町並み、入舟町の漁港などの描写に著者の観察の細やかさが垣間見える。