私は山を登る人ではない。
そんな私が登山家である長谷川恒男の本を手にしたのはパキスタンのフンザでの話があったからである。
長谷川氏はフンザ近郊のウルタルという山で遭難死したのであるが、晩年はフンザに学校を建てるなどの貢献をし、フンザでは最も有名な日本人であった。そのような経緯でこの本を読んでみようと思ったのである。
登山家という人種はやはりある種の変わり者、偏屈ものというイメージがある。まさに「山の男」のイメージである。
長谷川氏もその範疇に入る人物である。高度成長期の少年・青年時代の挫折と山との出会い、山の世界での成功からさらなる魅力と成功を求めての遍歴・・・長谷川氏の人生と共に他の稀有な行動力と精神力を持った登山家たちとの邂逅・遍歴をまじえながら昭和の時代の「山の世界」についても丹念に描き出している。
私が一番印象に残ったのはやはり長谷川氏の成長と変化であろうか。
当初は自分の実力に自負のある若者にありがちであるが、他人を蹴落としてでも、一種のだまし討ちに近い形であろうと地位と名声を求める姿から、一種の権威となり、自分を主張するだけでなく、後進を育てたり、外の世界への貢献を果たしていくことになる後半生といった変化の姿である。また、さらなる高みを求め、体力の衰えと戦いつつ、歴史に名を残そうと奮闘する姿である。
山の世界というのは私とは縁遠い世界であるが、長谷川恒男という一個の人間の魅力を知ることができたのは望外の喜びである。