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長英逃亡〈下〉 (新潮文庫)
 
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長英逃亡〈下〉 (新潮文庫) [文庫]

吉村 昭
5つ星のうち 4.8  レビューをすべて見る (5件のカスタマーレビュー)
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商品の説明

内容(「BOOK」データベースより)

放火・脱獄という前代未聞の大罪を犯した高野長英に、幕府は全国に人相書と手配書をくまなく送り大捜査網をしく。その中を門人や牢内で面倒をみた侠客らに助けられ、長英は陸奥水沢に住む母との再会を果たす。その後、念願であった兵書の翻訳をしながら、米沢・伊予字和島・広島・名古屋と転々とし、硝石精で顔を焼いて江戸に潜伏中を逮捕されるまで、6年4か月を緊迫の筆に描く大作。

登録情報

  • 文庫: 400ページ
  • 出版社: 新潮社 (1989/09)
  • ISBN-10: 4101117268
  • ISBN-13: 978-4101117263
  • 発売日: 1989/09
  • 商品の寸法: 15 x 10.6 x 1.6 cm
  • おすすめ度: 5つ星のうち 4.8  レビューをすべて見る (5件のカスタマーレビュー)
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熱い読後感 2004/6/27
形式:文庫
すべてのエネルギーを賭けて生き抜いた男の生涯を、丹念な資料収集と、作者の推理・人間考察からの判断なよって書かれていて、胸打つ読後感だった。江戸時代の平安と秩序が、一方では厳しい監視と取締りや刑罰の賜物だったことは理解していたが、そんな状況下にあっても、人は法を超える、本来の人としての生き方を求めることが、強く感じられた。6年有余の逃亡生活を支えた多くの人々の、長英に託すそれぞれの思いが、作者のもっとも語りたかった部分ではないかと思う。どんな風に生きても、高野長英は時代に少し嫌われてしまった人ではなかっただろうか。その意味でも、完全燃焼の人生で救われる思いがした。
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2 人中、2人の方が、「このレビューが参考になった」と投票しています。
By cobo
形式:文庫
歴史小説は基本的にその場を見た人はいません、事実であろう資料をもとに作者が想い描いたあくまでも小説です。

それにもかかわらず、この吉村さんの描く高野 長英は魅力的人物です。若くして故郷を離れて、親族に不義理を重ねて、またその事を軽く流してみたり、勉学に才能があり、またその事を鼻にかけたり、とワガママで身勝手な側面を持ちながらも、知識を身につけた為に自国の置かれている状況を憂いて、例え牢屋の中にいる身分であってかまわないから洋書を和解(和訳する事を昔は和解《ワゲ》と言うそうです、これも私は最近知った)させてくれと頼んでみたり。矛盾に満ちているようで人間味を感じさせる人物です。その長英の牢屋への入牢から脱獄を経て死までの逃走を追う小説です。

長英の人物としての魅力があり、またその時代における不条理にめげない信念を持った姿が良かったです。そしてそれにもまして、その逃亡する長英を助ける数多くの私意の人達が魅力あふれています。長英を助ける事はすなわち自分の身を危険にさらす事で、その危険は非常に大きく、また、取り返しの付かない事なのに、助ける人達。その人達の葛藤と想いが良かった。
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形式:文庫
 長英の逃亡は尚も続く。奥州に入り、郷里の水沢に潜行し母に再会を果し、福島、米沢、天領中和田村、そして遂に破獄二年にして江戸に戻る。代官江川英龍の庇護のもと足柄上郡にて著作に没頭し、江戸に一旦戻り、宇和島藩主伊達宗城の招聘で、伊予国宇和島へ赴く。宇和島では充実した日々を送り著述の他、宇和島藩士へ蘭学を教授した。その後広島、伊予卯之町、名古屋、江戸、佐倉の後、幕府の引き締めの為蘭書翻訳が不可能になり生活に窮し、硝石精で顔を焼いて町医として開業を果たした。

 此等の日々を通じて、精力的に念願であった兵書の翻訳を進め、逃亡中でありながら多大な業績を遺している。天文書『遜謨児(ソンムル)四星編』『星学略記』、兵書『兵制全書』(ヘールリング・ウルベイン共著)、高弟鈴木春山抄訳「三兵活法」(ブラント原著、ミュルケン蘭訳)の完訳『三兵答古知幾(タクチーキ)』(三兵は歩騎砲の三兵科。タクチーキ:taktiekは戦術)。

 また宇和島では、藩主伊達宗城への意見書『知彼一助』、オランダ砲兵大尉スチールチイスの砲兵論の和訳『碼交〔左一字でホウと読む。砲に同じ〕家必読』等を基に、領内久良の天嶬鼻に洋式砲台を築く等、実地にその能力を生かした。

 しかし卓抜し過ぎた才能が自らの命を奪う事となった。此等の兵書は蘭学者や大名家で筆写され流布したが、長英以外には成し得ない高度な学問成果の為に、死亡説が定着しつつあった長英が江戸で存命し著述を続けている事が、広く信じられる様になった。そして奉行所の探索の結果、六年余の逃亡の果てに、捕り方達に鏖殺されてしまう。嘉永3年10月30日。享年47。その僅か三ヶ月後には長英を積極的に庇護したであろう島津斉彬が薩摩藩主に就く。嘉永5年ペリー来航。13年後、明治維新。時代が必要としたであろう長英の才は、十分に発揮される事なく、不運に妨げられて散ってしまった。

 逃亡中、長英は実に様々な人々の庇護を受けた。当然露見した際の幕府の厳しい処罰を覚悟しての行為である。彼等の地位も様々であるが、皆一様に、長英の偉大な才能が国家の大事を為すに足る事、そして長英の篤志に感銘しての事である。感嘆すべきは、彼等も皆憂国の士であった事であり、彼等の生きた時代は、和算、儒学、国学など、その道に長じていった者は皆一様に天下国家の大事を考え、自分の才能を有為に使おうと志していた時代であった。どんな小藩、田舎者であろうとも、列強の脅威に晒され始めた日本の危機を真剣に考え始めた幕末の黎明期であった。蘭学と、長英が撒いた種はその後、幕末の動乱を経て、明治維新の萌芽となった。その原動力となったのは、長英と同じく、下層の武士、市民達であったのである。

 本書に於いて長英の事蹟を極めて詳細に、そして実際の踏査を経て再構築した著者の業績も驚嘆に値する。丹念な資料収集の上に立って断裂した逃亡中の空白を細心の注意をもって埋め、創作を弄せず、長英の時代に先駆けた人生を見事に再現している。必死に時代を駆け抜けた長英の姿を生き生きと描き出した著者の情熱に、ただ感動するばかりである
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