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長英逃亡〈上〉 (新潮文庫)
 
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長英逃亡〈上〉 (新潮文庫) [文庫]

吉村 昭
5つ星のうち 4.6  レビューをすべて見る (7件のカスタマーレビュー)
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商品の説明

内容(「BOOK」データベースより)

シーボルトの弟子として当代一の蘭学者と謳われた高野長英は、幕府の鎖国政策を批判して終身禁固の身となる。小伝馬町の牢屋に囚われて5年、前途に希望を見いだせない長英は、牢屋主の立場を利用し、牢外の下男を使って獄舎に放火させ脱獄をはかる。江戸市中に潜伏した長英は、弟子の許などを転々として脱出の機会をうかがうが、幕府は威信をかけた凄絶な追跡をはじめる。

登録情報

  • 文庫: 394ページ
  • 出版社: 新潮社 (1989/09)
  • 言語 日本語
  • ISBN-10: 410111725X
  • ISBN-13: 978-4101117256
  • 発売日: 1989/09
  • 商品の寸法: 14.8 x 10.6 x 1.4 cm
  • おすすめ度: 5つ星のうち 4.6  レビューをすべて見る (7件のカスタマーレビュー)
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7 人中、7人の方が、「このレビューが参考になった」と投票しています。
形式:文庫
江戸時代末期、幕末の直前、数奇な運命に翻弄され、獄に囚われた天才的蘭軍事学者・高野長英の獄中生活と、脱獄、その後の逃避行の状況が描かれるスケールの大きな歴史小説。

丹念な事実収集と真摯な執筆によって、現代の読者に、時代と風景と状況と知性とが明瞭に提示され、様々な意味で驚かされる。

そして、高野長英において奇跡的に成立しえた逃避行を成り立たしめたような人間関係を自らが持ち得ているか、読みながら、どう生きるかということが問いかけられる。
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10 人中、9人の方が、「このレビューが参考になった」と投票しています。
形式:文庫
中国辛亥革命を主導した孫文が高野長雄という変名を使ったということからも分かるように、高野長英は、欧米列強のアジア進出の脅威に、最も早くから警鐘を発した江戸末期の医者であり思想家である。鎖国政策を批判した彼は宿敵鳥居耀蔵によって永牢(終身刑)に追いやられる。入牢5年にして遂に脱獄。弟子や牢仲間など多くの献身的な支援により、不可能とも思える逃避行を続け、ついには、島津斉彬や伊達宗城などの大名にまで庇護を受けるようになる。彼が潜伏中に訳した西欧の戦術書は、西欧列強の日本進出に危機感を持つ藩や学者の間で貴重な先進的文献として高く評価される。ところが、皮肉なことに、その翻訳が傑出していたが故に、それだけの高度な翻訳と解説ができるのは長英しかいない、ということで、一時は死亡説が流れていた彼の潜伏が暴かれてしまう。
 息詰まるような逃避行の中でも、時代に警鐘を発し日本を救わなければという使命感と、一人の弱い人間としての長英を、どちらかに偏重することなく見事に描ききった秀作である。
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2 人中、2人の方が、「このレビューが参考になった」と投票しています。
形式:文庫
 文化元年(1804)、奥羽水沢藩士後藤家に生まれ、水沢藩医高野家を養子で嗣ぎ、故郷を出奔後高名な蘭学者となった高野長英の伝記である。

 異常な熱意で故郷を出て以来、長崎のシーボルトの鳴瀧塾に入塾(文政8年・1825)、忽ち頭角を顕す。シーボルト事件を危うく逃れた後、江戸にて蘭学塾を開き、三河田原藩家老渡辺崋山らと親交、遠藤勝助主宰の洋学研究者集団「尚歯会(蘭学が幕府の忌諱に触れぬよう憚って、表向きは歯を大切にする、つまり高齢の隠居者、知恵者と此れを学び慕う者の集まりとした)」に所属。ところが崋山の幕府の対外政策を批判した『慎機論』、穏やかに外交を展開する様主張した長英の『夢物語』が幕府の老中首座水野忠邦の忌諱に触れ、長英は自首、天保10年(1839)永牢(終身禁固)となる(「蛮社の獄」。蛮社とは尚歯会の蔑称)。

 しかし長英は、入牢5年目の天保15年(1844)6月29日、外部から江戸小伝馬町牢屋敷に放火させて脱獄に成功。その儘逃亡する。江戸郊外向島から、武州蕨、上州中之条町、禁道の清水峠を越えて越後直江津今町と、苦難の逃避行を続け、故郷奥州水沢へ向かった。

 牢生活は悲惨そのもので、長英は惨めな獄死によって、当代随一と自負する蘭学の才を活かせない儘憂国の志を絶たれる事に堪えられず、火災の後、逃亡を決意する。「たとえ立ちもどったところで、罪が減じられるはずはなく、牢内で老いさらばえ朽ちはてることはあきらかだ。それならば、死を睹して逃げのびる以外にない、とかたく心にきめた」という一途な信念は、徐々に外圧を強めてくる諸外国からの海防政策の為に一身を捧げたい、という無私の動機に源を発している。しかし幕府の探索諜報能力は綿密で執拗であり、幾度も死線を潜って、長英は逃れ続ける。

 此の物語には沢山の支援者が出て来る。蘭学者仲間に限らず、算学者、漢方医、侠客から果ては取り締まる側の肝煎役までが、匿えば重刑に処されるのを覚悟で、中には拷問に架けられても口を割らず、一重に義を以て長英の逃亡を助けた。長英は自らの学才を鼻にかけ傲慢で、蘭学者仲間に嫌われていたという。しかし危険を侵して長英を援助し、学才に真摯に敬意を表する援助者達の行為に随分心を打たれた。彼等は長英個人は勿論、国家を外圧から護るのに有益な蘭学の才、そしてその才を国家の為に役立てようとする長英の志に対して義を立てたのであり、此の時代の人に共通の、自らが国家の礎石となる為に身を投げ出す、尽忠報国の精神を濃厚に備えており、それが故に、此の後直ぐに訪れる嘉永6年のペリー来航、安政の大獄、明治維新という時代の流れの素地を形作る事になっていくのである。

 ついでながら、本書では牢内で長英に心酔し、脱獄時に付いて来て逃避行を共にする清吉という町人が出て来る。長英との間柄が、後の松蔭吉田寅次郎と行を共にした弟子金子重輔を彷彿とさせ、何とも象徴的である。…(下巻に続く)。
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