中学生である長男の出家という「特殊」な事例を通して,
親/子離れ,夫婦関係という「普遍」の問題を
ユーモアあふれる文体で記した名作である。
私は91年の福武文庫版を何度も読み返してきたが,
今回その後の顛末を記した,
「長男の出家・その後」を併録して新版が出版さたので,
改めて読み直してみた。
本書の最大の魅力はユーモアにある。
作者と思われる主人公は若き頃のアメリカでの放浪/放蕩を経て,
息子が生まれた年になって,
坐禅に取り組み始める。
息子の良太は父親の影響を受けて禅僧になりたいと思うようになる。
出家して「良海さん」となった息子に,
「お父さんはどうして坊さんにならなかったんですか」
と本質的なところを突かれて,
父はあわてて熱弁をふるった挙句,
「僕はお父さんとは違うと思うな」と
すげなく突き放される。
このような描きようによってはシリアスになりかねない場面が,
なんともユーモアに満ちていて快い。
また夫が妻の真意を何度も取り違える様もユーモラスである。
このような取り違いは作者の師である小島信夫の『抱擁家族』における夫婦を彷彿とさせ,
また妻が不倫する『抱擁家族』よりは小市民的でその分温かみがある。
文庫版のレビューで女性の方が,
この妻が子供に執着し,夫をなじるさまが同性として不快だと書いてらっしゃいます。
今回「その後」を読んで認識を新たにしたのだが,
このような妻の態度は,
夫と禅の師(この破天荒な尼僧がまた非常に魅力的に描かれている)の
厳しさと関係しているのだと思う。
夫と禅の師は,本気で息子が道元のような高僧となることを望んでおり,
妻はそのような激烈に厳しい世界からただ一人はじき出されて,
「愚痴を繰り返す愚かな女」的な態度をとる他なかったのではないだろうか。
私はこの妻の方がいわば「普通」の人だと思うし,
作者もそれを理解して描いていると思う。
とにかく素晴らしい名作ですので,
自信を持ってご一読をお勧めします。