なんといっても緒形拳の圧倒的存在感。何故、彼が少女を連れて行ったのか、何をしようとしているのかをセリフだけでなく、語ってしまう。このところ脇役の多かった緒形拳ですが、久々の主役として彼の代表作がまた一つ増えたのは喜ばしい限りです。
6歳の少女サチ役の杉浦花菜の無垢な感受性と演技もよかった。映画のキーとなる少女だけに、スタッフはよく見つけてきたなという感じですね。
そしてこの映画では、少女との(心の)距離を接近させようとする象徴なのか、緒形拳が走る、走る、走る!! その映像的面白さも、郡上八幡など岐阜の山間の町や、美しい自然も心の浄化という意味も含め素晴らしかった。
印象的なシーンの多い映画です。緒形拳が走るシーンを始め、廃校で焚き火を囲むシーンは、デヴィッド・リンチの「ストレート・ストーリー」のシーンを思い出させるものでしたし、この映画のポスターの絵柄にもなっている明宝スキー場を二人手をつないで歩いてゆく後姿や、朽ちた木の間に少女が入り込むショットは、木の生命感と相まって神秘的ですらありました。
ファミレスで熱々のハンバーグを「痛い」と言って拒否する少女が、やがて温かい食べ物を受けつけるようになる。心がほどけていくさまを、ていねいに重ねるように描く脚本も素晴らしいし、奥田瑛二自身が刑事役で登場していい味を出ている。
安田は、これからも何か本来の温もりというものを模索し続けていくのだろう。彼の長い散歩はまだ終っていない。ラストのUAの歌う「傘がない」が心に沁みる。
寡黙な映像展開で家族の絆を改めて問いかける、本当に力作でした。