この著者、かなりセンスがいいと思う。
どの物語も、設定が変わっていてとても新鮮。特に、一話目の「存在のあり得た可能性」は今までにない感覚で面白い。作者のプロフィールを読んでからもう一度読んだらもっと面白い。ほかの物語もすべてが、ストーリーに基づく普通の小説ではなくひねりが効いている。タイというのでビーチがあったり湿度がムンムンのシーンを想像していたのだが、意外にも内容は都会的でクール。タイ映画「地球で最後のふたり」の脚本家ということで買ったところ、映画の世界観と同じく、なんとなくひきこもりっぽく、ナイーヴな空気が小説にも感じられて気に入った。
短編の一つにあった群像的な展開は、どこかほかの小説や映画で観た手法のような気もしたけれど、バンコクを舞台にローカルなタイ人の日常がリアルに目に浮かんでくるところが新しい。読んでいると自分がバンコクにいるような錯覚を味わえるのだけれど、それは旅行としてホテルに泊まっているのではなく、路地裏の小さな家に住んでいる感じ。でも特に貧乏したり物資に困ってるワケでもなく、日本での生活をそのままタイで送っているっていうのかな。タイ的なようで、実はタイ独特のものが強調されてはいないので、バンコクでも日本でも人間は一緒なことを考え心配し同じような生活を送ってるんだなあ、と思わせる身近な感覚。
さらりと読みやすく、ちょっとした驚きや笑い、感慨が味わえるしゃれた本だ。カフェでの読書なんかにはぴったりかも。