心理学者である著者は、前著「逆さめがねの左右学」の中でも、古くからの鏡像問題、すなわち、「鏡像では左右が逆になり、上下が逆にならないのはなぜか」という問題を扱っていたが、本書では、鏡像問題を、より幅広く真正面から取り上げている。まず、鏡像の幾何光学的性質について説明した後、鏡像に対して左右反転感を抱く場合と、抱かない場合があることを具体例で示し、それらを総合的に理解するには、座標系の共用-個別化という心的処理に注目しなければならないと提唱する。著者が長年たずさわってきた、逆さめがね実験からの知見に基づく事例の解釈には説得力がある。高野陽太郎著「鏡の中のミステリー」(岩波科学ライブラリー、1997)も、鏡像問題を学ぶためには必読の書であるが、これと比較すると、本書の取り扱いは、問題をよく整理して一歩先へ進んだ感じである。読者に疑問を抱かせるような表現や考え方も散見されるが、巻末の「一物理屋のコメント」には、それらの点の批判も記されている。