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「モモ」の世界を想像して、あるいは鏡という言葉から「鏡の国のアリス」を想像して読むと、ずっこける。
とりとめのない不思議な世界のオムニバスという点では、漱石の「夢十夜」に近いと言える。
あるいは、ビートルズのホワイトアルバムの「レボリューション9」とか、エリオット・カーターの弦楽四重奏曲を聴いている気分になる、と言ってもよい。
ユング的な、夢の光景のような描写が続き、しかも、あまり楽しげな印象はなく、どちらかといえばうなされるような、解決感のない夢である。一体全体、エンデはこんな作品を書いて楽しかったのか、と最初は考え込んでしまう。
この!本は、一見サンにやさしくはない。
最初に「なあんだ、陰気な本だナ」と思われても仕方がない部分はあるが、先入観も何もなく、感覚だけ働かせて読んでいくと、実はいろいろな色彩、エネルギーに満ちている。
その至福の瞬間が自分に訪れるまで我慢できるか、が勝負である。何年かかけて、じっくりと読み込んでいくようなつもりで。
感性の豊かな人にとっては、たまらなく魅力的な1冊となるであろう。
同時に、好き嫌いが相当はっきり分かれそうでもある。この本にどうしても馴染めなくても、それも1つの見識だろう。
「モモ」が、交通標識的な教訓をもたらすとすれば、「鏡の中の鏡」は、理屈ではない、夜の闇にドキドキするような生命的な感覚を呼び覚ましてくれる。その意味で、本当のファンタジー!だ。人間がもっと感覚的な存在であることを、自覚させてくれる。だから、あえて意図的に物語の論理性を崩壊させているようにも感じる。
なお、できることならドイツ語でも味わってみたい。エンデの言葉遣いはやや独特な印象を受けるが、「鏡の中の鏡」は、ドイツ散文詩として読んでも十分に楽しい。
むしろ、10代の柔軟な知性と想像力を持つ人たちにこそふさわしい。望ましいのは、10代の想像力と40代の人生観を併せ持つ読者であるに違いない。残念ながら、私は年をとりすぎた。想像力の泉が枯れかけている人間には、辛い思いが強く残る。
約300ページに30の短編。一話を読み切るのにたいして時間はかからないが、それぞれのストーリーが少しずつ関係している(鏡の中の鏡!)ので、全部を読み切らないとほんとうにはわからないという凝った仕掛けになっている。そして、一生懸命がんばれば必ず夢は叶うといった、ファンタジーにつきものの甘い予定調和の世界が何度もなんども崩される。崩されつつも希望を失うな、というメッセージも強く感じる。
繰り返し出てくるのは、時限爆弾。世界はいつ爆発するかわからない時限爆弾を抱えて破局への道を歩む。それに気づいている人は少なくない。しかし、職務に忠実な人たち(消防士など)が全力を傾けても、爆発を阻止する力にはならない。学者、芸術家も世界の破滅を前に、自らの役割に(半ば絶望しながら)没頭するばかりだ。
必要なのは2つの力であろう。1つは「世界を描く力」そして「夢を形にする力」だ。この物語が「悪夢」を描いたものだとすれば、現実は悪夢以上に恐ろしい。醒めることがないからだ。悪夢の中にいながら、夢を失わず、迷宮を抜け出す力を持ちたい。
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