1章「錯覚がいっぱい‐日常の中の錯覚」の冒頭の言葉は"いつだって自分は正しいと思う錯覚。" その後、視覚的な錯覚についての著名人の言葉が続きます。本章終末は"あなたを幸せにできるのは、ぼくしかいないと思う錯覚。" 1章だけでも様々な想像を掻き立ててくれます。
本書は全17章からなっています。どの章も秀逸なアンソロジーといった趣で、各章が独立しており、自分の興味のある章から自由に読んでも理解できます。193頁から各章の注釈が載っていますが、先にこの部分を読むことで本書の概要がより正確につかめると思います。
訳者まえがきで、鈴木と向井は著者のフランス人生物学者ジャック・ニニオについて、趣味が長じての著作であることを。また、歴史や文化的背景についてはフランスでの事象を主に扱っていることを明らかにしています。17章は日本語版への付章として原著より新たに付け加わった章です。
本書は原著の魅力が大きいことは勿論ですが、それ以上に鈴木・向井という訳者の貢献が大きいと思いました。翻訳作業では疑問に突き当たる都度、著者に問い合わせたり、様々な方に教示を仰いだりして、その訳文からも翻訳に誠実であろうとする姿が想像できます。視覚的錯覚については近年優れた著作が多く出版されていますが、それらに先行する記念碑的な著作だと思います。