きもの好きなら「龍村平蔵の帯」といえば、垂涎モノです。アンティークのきものを扱っているお店などで、目の玉が飛び出るようなお値段だったりもするのですが、その作品の存在感というのは、服飾品の域を超えて、まさに「美術品」と呼べるものです。
その龍村を創業し、織物に一生をささげた龍村平蔵をモデルに、宮尾登美子さんが30年の時間をかけてやっと書き上げたのが、この『錦』です。
主人公は、織物に取り憑かれたかのように、新しい目標を定めては、それに向かって一心不乱に前進していきます。そして、大名物茶入の仕覆の復元をきっかけに、法隆寺や正倉院御物の復元、さらには宮家の注文によるタピスリーの製作と、一織屋の域を超えた活躍をします。
仕事の業績が経糸なら、緯糸となるのは、彼をめぐる3人の女性との関係でしょう。十代から主人公に好意を持ち続け、仕事の場では常に吉蔵に付き従うお仙、曲尺屋から嫁入りして無口な中にも強い芯を感じさせる妻・むら、吉蔵の心の拠り所となる妾のふく。やはり、女性を描かせると宮尾さんの本領発揮という気がします。
ちなみに、タイトルになっている「錦」は、古くからある織物の技法で、さまざまな色糸から織り出された布のことです。
400ページ以上の大部ですが、なぜ龍村の帯に人が惹かれるのか、それを作った人たちがどんな苦労をなさったのか、という点に興味を持って、どんどん読み進んでしまいました。が、これまで読んだ宮尾作品としては、個人的にはもう一つ、突っ込みが・・・という気もするので、☆4つで。
錦