NHKの美術番組として人気のある「美の壺」制作班による「銭湯」の魅力を紹介した本です。シリーズの中では異色ですがアプローチの仕方が「美の壺」でした。
「まず宮造りに風格あり」として、東京の銭湯建築様式の代表とも言える宮造りを取り上げています。一見して社寺仏閣と見間違う外観で風格が漂っています。庶民の生活にとって大切な場所という捉え方で見れば合致するのでしょう。関東大震災の復興の中からこのような建築様式が生まれたと書かれています。
次に「富士が奥行きを作り出す」のテーマにそって銭湯の背景画に触れています。最後のペンキ絵師・中島盛夫さんの1日を追いながら、富士山の頂上の角度を描く難しさが語られていました。
参のツボは「ワンダーランドの仕掛けを楽しむ」として、京都の名物銭湯の「船岡温泉」が紹介されています。マジョリカ風のタイル絵での装飾を始め、唐破風の門構え等、これだけ独特の形態は他の都市では絶対に見られない存在です。戦災に合う事もなく、大正、昭和初期の建物や装飾がそのまま現在まで受け継がれていることにより、その「特殊な空間」の美が残っており、本書でもその魅力が綴られています。半分の写真がモノクロなのは仕方がありませんが・・・。
大阪の生野区にある「源ケ橋温泉」は、銭湯として全国初の登録有形文化財になったものです。和洋折衷のモダンな建物ですから一見の価値ありでした。
全国には昔ながらの風情をもった銭湯が街の至る所でしっかりと営業しています。レトロな雰囲気が残っていますので、廃業されていく銭湯を大切にしなければ、という思いに駆られます。考現学的な要素や風俗史的な観点からも興味がつのる本だと思いました。