松山ケンイチと聞けばまず浮かぶのは、「デスノート」のL。社会現象を引き起こした原作漫画の著名度の高さ、そして彼自身が架空の名探偵をあまりに見事に現出させたため、彼の他の出演作ををよく知らない者にはまだ「松山ケンイチ=L」なのだ。
昨年話題になった映画「デトロイト・メタル・シティ」や今後公開される「カムイ」にしても、派手なメイクや衣装で架空世界を生き「カメレオン俳優」などと呼ばれ、話題作に出演することで突如時の人となった彼にはどうしても漫画的な印象が拭えない。
しかし、これはそんな松山ケンイチのイメージを塗り替える作品だ。
原作はまたも漫画である。昭和45年に連載され物議をかもした「銭ゲバ」。貧困と醜怪な容姿のため蔑まれどん底の生活を味わった少年が、金の亡者となり邪魔者を次々と殺害しながら金と地位を手に入れていく。金だけしか信じられない己に満たされない渇きを抱えながら…。
この作品こそが現時点で松山ケンイチの真骨頂ではないか。
彼には演技力があるとかないとかいう評価はもはや的外れだ。そんな次元は超越している。
銭ゲバになってしまった主人公・風太郎。松山が描き出したその生き様は、残酷で醜悪で哀切でいとおしい。
これはもう漫画ではない。彼は生身の人間として平成の風太郎を生ききった。
共演者も見事だ。風太郎に翻弄され、次々と人生を狂わせ破滅していく人々。特に風太郎を執拗に追い詰める刑事を演じた宮川大輔は鬼気迫る熱演。
撮影前のコメントで「この作品に答えはない」と話していた松山ケンイチ。
答えはない。しかし、心を掻き乱される作品である。