5編の短編はいずれも銀行内で起こる事件で、犯人は誰か解いていく推理とサスペンスは読み応えあり面白い。第1話の「金庫室の死体」は、破綻した城南相和銀行長原支店の金庫室内で老婆の死体が発見されるという衝撃的な始まりだ。老婆の2億円の定期預金の行方は? 第2話の「現金その場かぎり」は、締めの時間にテラーの一人の現金が300万円不足だ。しかもこれが2回目という。これは池井戸氏の短編集「不祥事」にある「過払い」に似ている。 第3話の「口座相違」は、東都銀行渋谷支店で最もまずいミスが発生した。3000万円の口座相違だ。ところが思わぬ展開に。 第4話の「銀行狐」は、帝都銀行本店に頭取宛の不審な手紙が届く。発信人は「狐」、銀行をひどく憎んでいるようだ。 第5話の「ローンカウンター」は、渋谷円山町で若い女性死体発見、その近隣で2件の殺人事件も発生した。迷宮入りしそうになったが、山北刑事が自分のオートローンの相談に銀行のローンカウンターに行った。そこで・・・。
この中で第4話「銀行狐」には、帝都銀行が融資をして帝都グループの生保の変額保険に加入させたあの事件も出てくる。あの銀行グループが圧倒的に多く、訴訟の数も飛びぬけて多かったのが思い出される。また怖いミスは第2話の現金の不突合と、第3話の口座相違だ。「現金その場かぎり」とは、窓口のテラーのみならず、外訪時の現金授受も、その場で確認しなければ後の祭り、怖い。口座相違した場合の顧客は善人ばかりでない。変な口座に入ってしまえばどうなるか、怖い。池井戸潤氏にはまた別の作品で、違算、口座相違、或いは当座預金の不渡りか入金待ちか、貸出稟議が決裁されるか否かという逼迫した状況、取引先との癒着、投信販売のコンプライアンス等々という怖い話を期待している。