本書は6篇からなる短編集だが、中に「帝銀事件」と「国鉄総裁変死事件」が入っていたので、柴田哲孝が2つの事件を短編でどう料理するのか、その興味も手伝って読んだ。
「帝銀事件」は目新しい展開はなかったが、彼の得意とする「国鉄総裁変死事件」は簡潔にまとまっていた。
捜査一課は自殺の線に傾いており、本書にも実名で登場する「刑事一代 平塚八兵衛の昭和事件史」(産経新聞編)や「封印された文書」(麻生幾)などを読むと、地道な捜査では自殺以外に有得ないと書かれている。
松本清張の「下山国鉄総裁謀殺論」辺りから、背後にGHQ内部のG2とGSの勢力諍いの説が浮び上ってきたが、柴田は更に見返資金という利権が加味されていると判断し、実行犯は総裁の姿が消えた三越百貨店近くのライカビルにあるインドネシア産業が、全ての巣窟であると推察する。
この辺りの冴えはさすがであるが、元特高刑事の武田を狂言回しとする小説は甘い。
勿論、戦後の混沌とした情景描写に見るべき処もあるが、ストリーに深さがない。ラストなどは駆け足で無理矢理終らせた印象があり、もう少し何とかならなかったのだろうか。