本書は昭和二十、三十年代に作られた日本映画を通して、往時の東京の街並みを再現しようとしたもの。私は現在でこそ神奈川都民だが、田舎で生まれ育ったので、当時の東京の街並みなど知らない筈なのに、読み進めて行くうちに何故か懐かしさを覚えてしまうという不思議な魅力を持った作品である。
これは「映画を通して」という構想が奏功してからであろう。挙げたらキリがないが、「東京物語」、「流れる」、「下町の太陽」、「銀座の恋の物語」など私も観た作品が採り上げられるので、街並みの再現と同時に往時の様々な俳優達(有名俳優から玄人好みの個性派俳優)の思い出も甦る。このため、良く知っていた筈のない街並みも、知っていたかのような錯覚に捉われ、何だが懐かしさを覚えるのである。本書が街並みの再現と同時に、往時の人々(主に下町)の人情を再現しようとしている点も見逃せない。
本作はそうしたノスタルジーものとしての意義だけでなく、記録文学としても価値が高いと思う。著者によれば、昭和三十九年(東京オリンピック)以降、東京の街並みは大きく変ってしまったと言う。それが本書執筆の動機であるが、平成の時点から見れば変貌振りは更に顕著であろう。そうした意味でも、戦後の東京の街並みと人情を見事に再現した心温まる書。