毎日新聞「日曜くらぶ」で連載された新聞小説である。離婚、会社の倒産、再就職と変転するサラリーマン人生を描いた小説だ。主人公は、「高度成長期に育ち、一生懸命頑張ってきたのだけれど、人情の機微に疎い。妻も含め女性の扱い方がへたなので、苦しい立場に追い込まれてしまった男性」(篠田談)だ。
その男性とは、現代の自殺大国日本で、最も自殺を選択する確率が高い世代にも属する。「男の本分は仕事」という高度成長時代の価値観にしがみつき、他者の気持ち・感情を理解する前に、目の前の問題を合理的に処理し突き進む。「ワークホリック」的生き方を頑迷に保持し、他者に相談することなく、自らの命すら合理的に処断していく訳だ。
小説では、こうした、しゃにむな頑張りは、証券会社・保険会社・大学というどの職場でも、ある程度功を奏するのだが、他者(や自分)の精神的サインを見落とし、そのため決定的岐路で、何度も失敗することになる。
一気に読んでしまった。相変わらず、篠田の人物描写力はピカ一だ。登場人物それぞれの特色が際立っている。とくに、男と女の思考のすれ違いを書かせると他の追随を許さない。企業倒産、9.11テロ、企業のコスト削減、大学の変容などの、新聞が好む時事ネタにリンクした、細かいエピソードもリアルで面白い。しかし、これらの小話は、残念ながら相互にはあまりリンクしていない。物語を異次元に飛躍させた上で多重のどんでん返しを加えるという、いつもの篠田ならではの大胆なストーリー展開はない。新聞小説という媒体に配慮したのか、まじめな男のまじめな結末に終わる。
これは篠田の現代社会と同世代の人生に対する諦観なのだろうか。主人公の人生は、必死に生きた立派な人生なのだろうが、つまらない人生だ、と思う。