目標がまるでなかった八軒が、自己の内面のみではなく、
友人やその家族を通して大きく成長してゆく様が本巻では顕著です。
石釜修理やシカの解体など、
農業高校のみならず、北海道の片田舎在住でも滅多に経験できないような貴重な経験を踏まえ、
八軒の世界がぐんぐんと広がってゆくのをひしひしと感じ取れ、
読者側も同じような感覚が味わえます。
特に屠殺経験前に、事故死したエゾシカの解体体験なんかは、
八軒の成長に当たっては非常に良い段階を踏んでいるなと感じました、
新鮮な動物の解体でも、手に着いたニオイが取れないなんてのは、
解体した人ならではの貴重にして重い体験です。
また、解体対象の動物の視線が気になるというのも、
解剖や解体経験がある人ならば誰もが感じるのに、
一般の人にはなかなか感じることが出来ないものですが、
この辺りを読者に感じさせてくれるのは、
体験を踏まえた知識と漫画家としての技量を備えた筆者ならではの、
見事な描写と感じました。
私も動物の解体や解剖は多く手がけているうちに、
動物の視線は気にならなくなりましたが、
未だに目の辺りの解剖は精神的にやりにくく、
それだけ目と言うものの訴える力は強いのです。
さらに大規模酪農や、昔ならではの家族単位での酪農経営をあわせて、
酪農の現状が見え、考える大きな切っ掛けにもなります。
本作は正直漫画として盛り上がりに少々物足りなさ感があるのは否めませんが、
漫画の枠を越え、食を通じて酪農を中心とした農業や命など、
知識的や読者側の考える余地をも与えてくれる良作ですね。
TPPや食の安全など、農畜産業に注目が集まりつつある今だからこそ、
ぜひ呼んでもらいたい一冊でもあります。
因みに本巻で触発され、
石釜を作ろうかと思い立ちましたが、
材料費と技術面と労力と時間の都合で断念いたしました…
普通の漫画なら石釜づくりから始めるのでしょうが、
なるほど、修理である理由がわかりました。