この作品はどのように分類されるべきなのでしょうか。自伝? 随筆? 或いは小説? どの表現も適切でないように思われますし、そもそもこの作品を分類しようと試みること自体が無駄な行為かもしれません。
明治44年(1911年)から大正2年(1912年)、中勘助が27歳から28歳にかけての時期に執筆された作品で、作家の幼年時代の追想を綴ったものです。愛する伯母との愛情溢れる日々、優秀な兄との相克、小さく細々しながらも記憶に刻まれている物たち。しかし、この作品が単なる追想で終わっていないのは、作家が執筆時には既に20歳代後半にあったにも拘らず、記憶の中の幼年時代を生きていたという事実です。そのことを現実からの逃避と呼ぶ人があるかもしれません。しかし、この後家族や自らに起こる悲劇に否応無く巻き込まれて行くことを考えると、彼がこのような作品を物したことを非難すべきではないでしょう。
大人の言葉を用いながら子供の世界をあったがままに鮮やかに蘇らせたところが、この作品の稀有で賛嘆すべきところではないでしょうか。
現在古書以外で手に入る中勘助の作品は、『銀の匙』と『提婆達多(でーばだった)』の二作しかありません。彼は多くの随筆や詩をも残しているのですが、残念ながらそれらを入手することは容易ではありません。残念なことです。